つみきのいえ

伊丹市立美術館の加藤久仁生展に行く。米国アカデミー賞受賞作「つみきのいえ」監督である。

0.或る旅人の日記
会場に入ると物悲しいアコーディオンの音色。「或る旅人の日記」というFlashアニメが流れていた。脚長ブタを連れた旅人が空想の国トルタリアを旅し、巨大なカエルの背に立つ街や、一杯のコーヒーを飲む間のファンタジーやなんやかやと、説明文では遠く難解だった言葉の数々が、動画を見ると一瞬にして解けて親和してゆくから、アニメってすごい。

1.つみきのいえ
メインの展示「つみきのいえ」で、作品を縁どるのは、跳び箱のような台形の木製 展示ケース。大きさもいろいろ、つみきのようで楽しい。脚本からアイディアスケッチ、絵コンテ、原画、背景画まで、ふんだんに展示されていて、作者の脳や制作風景をのぞき見できる。ちなみに加藤氏はマルマンのクロッキー帳とロールバンを愛用している様子。おばちゃんたちが「TVのプロフェッショナルでも宮崎駿のやっていたけど、アニメって作るの大変やねー」と異口同音にシンプルな感想を述べて通り過ぎていく。本当にねぇ。

2.あらすじ、情景
「0.或る旅人の日記」が「つみきのいえ夜明け前」ならば、展示の最後は、いわば「つみきのいえバブルその後」。世界的な賞をとってから青年はそれからどうアニメと向き合っているのか。今回の展示でここが一番よかった。アニメ「情景」は自身の記憶に嘘とユーモアをミックスしたもので、これまでの浮遊感はそのままに片足根ざした感じだ。なんかなつかしくて眠い。来場者の感想文にも「鉄棒できずに小学校を卒業したことを思い出した」とあった。わたしもピアノ教室で、黒鍵と白鍵にいざなわれて明後日の世界を旅したことを思い出した。ピアノは上達しなかった。

伊丹市立美術館はいつも、ボリュームも見せ方もちょうどよい。9月1日まで。