マイブック

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病棟生活を送る母のために、新年に新潮社のマイブックを買い与えた。ヨットで遭難した人が自身と暦を見失わずにすんだのは日記をつけていたからだという、遠い日のテレビを思い出したのだ。
それから母は一日も欠かさず左手で日記をつづっている。


1月1日 「寝ていることがこんなに辛いとは思わなかった。体の重さが内臓をつぶしそうだ」
1月5日 「正月休みが明けて、同室の患者が戻ってきた。ずっとぶつぶつ独り言を言っているが大丈夫だろうか」
1月6日 「明日は手術。死ぬことはないと思うがうんうんうなっていることだろう。痛いのは嫌だが仕方ない」


そこには口にはしない不安や弱気がヨタヨタした文字で記されていて、入院って大変だなーと改めて実感するのであった。
家族みんなお見舞いのたびにそれを読み、私は母の似顔絵を加えたり、妹は進研ゼミ風に誤字を添削したりして、ひとつの楽しみとなっている。「弱気な日記でも最後は常に前向きで終わっているのがいじらしいね」とは妹の評。

そうして家族控え室でピクニックをしているうちに手術は無事に終わり、術後の経過も良好なので、私は姉の出産まで京都に戻ることにした。
その後もリハビリは進み、今では歩行訓練もしているとのこと。「一日の一番の楽しみはマイブックをつけることだ」と電話越しに言っていたので、再び読むのを楽しみにしている。