カビと真珠

中耳炎のはじめの処方薬は耳科用液。目薬の耳バージョンのようなものだ。
自ら耳に水を入れる背徳感が快感にかわり、悪くない耳にも指定回数以上ほどこすまでになった頃、両耳がひどい痒みに襲われたので医院に駆け込んだら、先生は「これはアレですね」と言って紙に「カビ」とかいた。「うーん左耳は綺麗だったのに。なんか共用しましたか?右耳のが伝染ったね〜」とも。恥ずかしさに目が合わせられぬ。
ウーム、それにしてもあのナメクジの這う感はカビが菌糸をのばしていたのか、あるいは旅立つ胞子のざわめきかか。


カビを殺したあと、先生はモニターに映る私の耳穴ののどちんこのようなデキモノを指して「表面上悪さをしているのはカビだけど、真の敵は多分これ」とか言って、紙に「真珠」と書いた。
「真珠腫性中耳炎」とは「大きな病院で手術が必要」で「放っておいたら耳小骨を破壊しウズマキ管を破壊し耳は聞こえなくなり、三半規官感を破壊しめまいを伴うわ、顔面麻痺がおきるわ、髄膜炎になることもある」そうな。転落ぶりがひどすぎやしないか。そんならいち早く手術したいところだが、筆談医師いわく「引越しが終わって新しい街で手術したほうがストレスも少なくていい」そうで、「町医者でできる治療はここまで!」と治療を打ち切った。
以降、耳詰まりと痒みと鈍痛がとり残されて、音の距離感がつかめない。


わたくし神戸でモダンに働いていますが、耳にカビと真珠を秘めているのであります。