ハウス名作劇場2

ステイ先の非衛生さにもすっかりと慣れて、マダムとも平穏無事に過ごしていた頃、新たに香港人の留学生がやってきた。ヤァヤァヤァ!

(余談だが、こちらでの会話は何となくの空気で理解するため正解率は65%といったところ。香港人については「オンコング」風に発音され、香港かな?と思っていたら、オンコングがフランスの海に登場したり、来週来ると聞いたりしたので、地名なんだか、人名なんだか謎は深まり「オンコング」と聞くたび暗い気持ちになっていた)

果たして暗い気持ちは的中し、そのオンコングは、このお家で最も暮らしにくいだろう「神経質」であった。
お風呂の窓から裸が外に見えると言っては大騒ぎ。部屋の人形を見て大騒ぎ。お風呂のカビが気になると言って「我々はケミカルを使って大掃除をすべきだ!」と面倒な提案をし、朝も夜も風呂場を独占。せっかくマダムが作ってくれたサンドイッチを「暑いから悪くなるし」と言って捨てる。

ごみがいっぱいだ!と怒っていたから、ゴミ箱を見たら、彼女の使ったシャワーキャップがこんもり。 ベリーショートなのに使い捨てシャワーキャップをかぶっているようだ...体を洗浄した後、服を着て髪を洗っているようで、もはや神経質の一環というより何か呪術的なものを感じ、私の笑のツボを激しく押す。

倹約家マダムと一戦交えるかもね〜とぼんやり思っていたら、マダムにまだ慣れぬ内、矛先は私に向けられ、逐一あれこれ言ってきては彼女が理解するまで拉致されるので、曖昧な日本の私はほとほと参ってしまった。

そして遂に開戦。「これは臭いから腐っている」と言って、マダムの鼻にパンを突きつけた!しかしそこは百戦錬磨のマダム、「ノン、これはパンドミと言うのよ」と、わからないふりでかわした。所詮アウェイなのだ。でも彼女も何度も同じ単語を繰り返すという心理戦でテロを繰り返す。

皮肉なことに異端児に対する共通認識から私とマダムはさらなる親交を深めている。悪愚痴を言ったりはしないが、なんとなく意思疎通ができる。大雑把と神経質の二台巨匠(私の番付より)が同居しているこの貴重な人間交差点、ますます見逃せない。