温泉卓球

年末、家族――といっても妊婦の姉・忙しい看護師の妹は来れず両親と私のみ――で加賀の山代温泉「山下屋」に行ってきた。一人8,700円と安価で、夜はバイキングも美味しいし寄席も楽しめるし、なかなかのんびりとしたのだが、気象予報は不吉な兆しを告げていた。「日本海側は嵐のお正月となるでしょう」。
翌朝、しぶる両親を説き伏せ、15分限定で卓球をした。そこで運動音痴であるはずの母が神がかって強く、ネットやエッジにぶつかる魔球を展開し我らを翻弄。タイムリミットを告げる父に最後だからと言って、打倒母とばかりに、右へ左へと母をゆさぶったところ、母は漫画のように派手に転倒した。
バリーーン
鉄板の上に鍋を落としたような音。小学6年生の参観日でも大縄跳びで母は尻餅をついて、誰よりも大笑いをしていた。「面白いお母さんやねー」とクラスメイトに評され、ただただ恥ずかしかったことがよみがえる。けれど本日の母はまったく笑わず、動かず、半笑いの私に「骨折れたー」と言った。
大げさな、と思ったが、それは事実で、急いで行った病院で手首、大腿骨の二箇所の骨折と診断された。手首は固定しとけばくっつくが、大腿骨にいたっては人口骨と置換する手術をせねばならず、退院は2ヵ月後とのこと。
あの金属音は骨折の音だったのか―― 一瞬の転倒がこんな惨事になるとは、正月や姉の出産などの一大イベントを病院で過すことになるとは、前夜誰が予想できただろうか。先にたたない後悔あれこれと降り積もる。
そんなこんなで、お節を作りお正月を迎えたり、母の入院生活や姉の出産後の世話をしたりすることになって、何かと忙しい。