小樽

自主フレックス制で仕事を早めに切り上げ、ツレのマイルで新緑の北海道へ――。

宿のある小樽に着いたときはすでに夜。駅から少し離れた宿まで夜の運河沿いを歩いていこう、などと洒落心を出したところ、廃墟が軒を並べる暗黒界を一人歩くはめになった。
昼間の観光客はどこへやら、自身の足音と石畳を引きずるスーツケースの音しかしない。 そういえば飛行機の翼に日の丸●が大きく描かれていて、それは昭和の戦闘機のようで行き末を案じたが、ここに着いたか。石畳の終点で廃工場を見たときには、もう恐怖にとらわれ全速力で駆け出していた。

(実はこの工場、観光スポットとして名高い「北海製罐・小樽工場第3倉庫」。『工場細胞』の舞台になった場所でもあり、夜は犯罪スポットのように見えたが、日の下でみると確かに大正建築の鉄筋コンクリートが重厚で異質な雰囲気をもっていた)

ほうほうのていで辿りついたお宿「おたる北運河かもめや」はこぢんまりと味わい深く、音は筒抜けだがほっこり居心地良く料理もおいしかった。翌朝、朝食に「八角」をいただきながら、おかみさんに聞いたところ、このお宿はもともと幼馴染のお家が営む水産加工場で、娘時代の思い出がたくさんつまった建物だったので、取り壊す前に改装して宿として活用することにしたのだとか。
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数年前に立ち寄ったときは「運河ってこんな短いのか〜」としか思わなかった小樽。今回はからずも、かつての樺太貿易の運搬役・運河、かつての缶詰倉庫、かつての水産加工場を一夜でめぐり、在りし日の小樽をずーんと感じたのであった。