ニセコの森の小さな休日

今回の北海道のおめあては、京都で酒器をつくる今宵堂さんと、ニセコで和菓子をつくる松風さんの展示「ニセコの森の小さな休日」。

今年のバレンタインデーに今宵堂さんから小さな干菓子をいただいたのだが、それが松風さんのつくる「寒氷」――外はカリッと中はやわらかな甘い夢の菓子――だった。寒くて灰色の冬、小箱のなかの蝶と雪だけが色づいていて、それは日々の小さな幸福であった。 箱の中の一葉に記された「ニセコアンヌプリの湧水をつかいました」も甘露な呪文のようでうっとりと眺めたものだ。そんな私の白昼夢ぶりを見ていたのか、あるいは気まぐれか、今回ツレが突如と飛行機を手配してくれたので、全く実感のないまま無計画にニセコに向かうことになった。


そんなわけで一人、にょろにょろした地図を片手にニセコの別荘地を歩いて森の展示会場・松風へ。今宵堂さんの器は松風工房の庭に、しごく自然に点々と並べられていた。器には蟻が這っていたり、草が入っていたり。「オヤこんなところに」という切り株に小瓶があるかと思えば、さりげなく杯風鈴がちりんちりん。実は私が来る前にお客さんがどっと来て沢山購入されたそうで、あのさりげない点々感が極まったようす。こっそりフタつきの器に わすれな草を入れてみた。
工房の中では和菓子と辛口酒の「ほろ酔いセット」をいただいた。この組み合わせが思った以上に仲睦まじく、辛口酒でコーッとする喉を和菓子の甘みがやさしく和らげる。アジサイの和菓子がかわいい。

工房は、あこがれの「森のお家」であり機能的な「工房」であり、素敵過ぎてくらくらした。ふだん、町家がすてき! などとわぁわぁ言われている今宵堂の連さんが、松風邸の浴室などを熱っぽくわぁわぁ紹介してくれたのがとても新鮮だった。なかでも工房の大きな窓がいい。この窓は『森の中の小さな和菓子屋』でニセコの春夏秋冬を切り取っていた窓で、夜、部屋の明かりをつけると闇夜の窓に白い蛾が大量に集まってきたのだが、それすら妖艶な絵のように縁どる懐の深さよ。

松風の麻里さんが素手で和菓子をホイホイ扱う感じとか、皿を洗い片づける速さとか、動画で見せてもらった餅を丸める手の動きとか、なんだか簡素できれいで、和菓子職人さんなんだなーと実感した。そういえば、夜、外で羊肉を食べていたとき、少し哀愁のあるキツネが登場して、今宵堂の梨恵さんがキツネに対して自己紹介をしていた。「今宵堂です おもに酒器を作っています」と。なんと簡潔!職人!静かに憧れた。

森の中にある小さな工房の和菓子レシピ―春夏秋冬
夢の菓子を茶の間に――神戸に帰ってから松風さんのレシピで「アスパラガスの豆乳ムース」やら「芋かりんとう」やら「水ようかん」を丁寧につくって家やオフィスで食べている。甘露の白昼夢はまださめやらぬ。