摺師の技

No03 紅梅ー伊藤若冲 木版画
京都精華大学の「手摺り木版講座」で、摺師 宮村克己氏による木版摺りを見せてもらった。

絵具を塗った木版に紙をおいてバレンでこすること × 枚数分 × 12版。この道50年の摺師は、流れるように摺り、摺った紙を重ねていく。
摺ったばかりの紙を重ねると、ふつう下の絵の具が裏につくような気がするのだが、そんなことはない。 結構水っぽい絵の具であるが、その量がちょうど一枚の紙が吸い込む量であって過不足ないのだ。
また、絵の具もバレンも必要な箇所にしか置かないので、図以外のところがうっかり紙にうつることもない。これ当たり前のようだけど、木版の上に紙を伏せた状態で図版がわかっているということ。透視的記憶力だ。
そしてはやい。体内時計でカウントしたら1版で1枚摺るのに20秒もかからないかった。もちろん絵具を木版にのせるところからカウントしている。
過不足のない丁度よさは整理方法にもいえた。たとえば、梅の花の版のときは赤い絵の具とスポンジとぼかすための小さな刷毛、幹の版のときは黒い絵の具とでかい刷毛、といった版ごとに必要な道具がいつの間にか手の届く位置に整然と並んでいるのだ。バタバタもせずさりげなく、あぐらのままで。
自分で年賀状をつくる時のしっちゃかめっちゃかぶりと失敗を味と為す乱暴さを思うと愕然として、50年の歴史に平伏するばかりであったが、「摺師は5年で一人前、って言われるけど筋のある人なら2-3年でだいたいできるようになる」とおっしゃっていたので、なんだか気楽になって私もまた版画年賀状をしようと思った。

芸艸堂の木版本『若冲画譜』の「紅梅」(画:伊藤若冲