花の名前

職場の庭でみつけた黄色の花。その辺にいた無口な庭師に聞くと、果たしてそれは「ツワブキ」であった。なるほど、葉がフキのような形をしている。しかし花はこんな形であったか。やっとあえた。


つわぶきの名は向田邦子『花の名前』で知った。
桜と梅の違いもわからぬような無粋な夫に、花や魚や野菜の名前を教える妻。「お前のおかげで人間らしくなれた」と感謝された日々は過ぎ去り---妻の前に現れた夫の女の名は「つわ子」といった。花の名前の女、夫が惹かれたのは名前のせいに違いない。「うちの主人すぐいいましたでしょ、つわぶきからとったなって」。ええ、とつわ子が答えたら、花の名前はわたしが教えたんですよ、と話すつもりだった。だが違った。「いえ、別に。そういえばあとになって言ってたわねぇ。君のおふくろさん、つわりがひどかったのかって」。


ちょっとゆるめの女の印象からして、綾瀬はるかのような花だと思っていたが、実物はもう少し野趣じみた あき竹城のような花であった。花が散ると普通のフキに見えるところもよい。独身の頃はこの女に恐れを抱いたものが今は最後の一文がこわい。


女の物差しは二十五年たっても変わらないが、男の目盛りは大きくなる。

思い出トランプ (新潮文庫)