地獄めぐり

絵本 地獄――千葉県安房郡三芳村延命寺所蔵幼な子のしつけに便利らしく地獄絵本が売れているようだが、わたしは幼き頃より地獄がすきであった。
三途の川、剣の山、釜ゆで…あちらの世界の異文化にうっとり。絵巻に登場する餓鬼もたまらぬフォルム。別府や熱海に地獄があると聞いては、いつか物見遊山に行きたいと願っていた。これは、まんが日本昔ばなし「地獄のあばれもの」の影響である。

地獄に落ちた三人が協力して剣の山や釜ゆでを解決していくというお話なのだが、今日の桂吉弥独演会で聞いた古典落語「地獄八景亡者戯(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)」がそっくりで驚いた。初めて聞く80分もの長い落語に、ところどころ記憶があって、さては我は地獄体験者かと疑ったが、「地獄のあばれもの」の原典が この落語だったようだ。
落語「地獄八景亡者戯」は、鬼が三途の川の渡し賃をちょろまかしたり、あの世の観光をしようと ふぐの肝を食べて集団自殺をはかったりと、とかく80分間ずっとばかばかしい。閻魔大王の前で尾崎紀世彦が歌ったり、会場が文楽劇場だったので橋下市長の文楽批判を皮肉ったりと、時事ネタを入れるのも特長のようだ。
じごくのそうべえ (童心社の絵本)時々うつらうつらしたため、自分の内と外の境界がうすくなって自身の体験のように記憶してしまったこともあり、死なずとも地獄ツアーを満喫できた。別府や熱海では満足いかなかった夢の実現である。
この落語を原作として、『じごくのそうべえ』という絵本も出ている。立ち読みしたら、こちらもテンポよく楽しかった。「そんなことしてると地獄に落ちるよ」という効力はなさそうだけど、それでよいと思う。