てぶくろ算

ここ数年、「人生で手に入れた手袋の数」と「失った手袋の数」が、イコールで結ばれていた。だから、指先はいつも冷えていた。
冷えた朝や凍る晩には、冷えて痛んで指先の感覚がなくなる。そういうとき、失った手袋のことを考える。ああ、あれがあったら!
数年前、3つ手袋をもらって3つなくした。皮付のオレンジ色の手袋、ふわふわの手袋、シンプルな手袋。ふがいなさすぎる。だから手袋がなくっても仕方ないのだ。裸手の刑を受けているのだ。でももし、次に買うなら、なくした3つを超える機能性がほしいとも思っていた。そうじゃないと、またなくしてしまうから。

そんなある雪の舞う日、邪気は指先から入るという話を思い出して、ぷらっと入った店でついに買った。
「入手数」−「損失数」= 1
なんと暖かな計算式。冷えた朝、これまでの受刑習慣で裸手で街をゆく。ああ、手袋があったら!あ、あるんやった、とポケットに手を伸ばす幸せ。買った手袋は、なくした3つよりも薄手で暖かくないけれど、ポケットに収納できるのでなくしにくい。それが私にとって一番いい手袋だったのだ。

ヨガ

この半年、ヨガ講師の資格をとるべく、週に一日、洞穴で学んでいる。ポーズはもちろん、インドやヨガの哲学なども。地上の光とは縁遠い日々だった。
そんな地底生活にも春の足音が。修了も近くなってきたのだ。待ち遠しくてウキウキしているが、他の輩は「さみしい、終わらなければいいのに!」と言い合って涙目。この差はいかに、洞穴の魔法だろうか。かくいう私も「お尻の穴を天に突き出してー」とかニヤリとせずに言えるようになっている。
それにこの半年で、ずいぶんからだが強くなった。前屈もブリッジも、できるようになった。そんなこんなで、課題の無料ヨガクラス受けたい方募集中です。チベットオレンジのヨガマットをもって出張します。[正規品]ジェイド ヨガ ヨガマットトラベル3.2mm JADEYOGA ピラティス 天然ゴム 送料無料

お稽古仲間

落語教室も終盤。「くちなし」「兵庫船」を終えて「道具屋」の稽古に入った。
稽古の仲間は10人ほど、女子2:男子2:おじさん6という配分だ。平日昼間に落語を習うような酔狂者がシャバで一体何をしているのか、ずっと気になっていたのだが、稽古後のご飯を一緒にするようになってようやく判明した。

医師、薬剤師、不動産、警備員、豚まん会社のおえらいさん、マジシャン、元ラジオアナウンサーといったところ。すごく多彩。

そのなかの医師のおじさんが、声が小さいと言われ続け、昨日、口を縦に大きく開けても歯などがブラインドになるだけなので口角をあげるように横に開くといい、と指導され、その通りにしたら本当に声が前に飛んだので、いたく感動していた。以前から「○○さん診察室にお入りください」がマイクを通しても聞こえにくいほど声がこもっていたのに、と。「初めて自転車にのれた」「初めて泳げるようになった」レベルで嬉しいそうだ。これでバンド活動も精が出る、とますます底知れない。

修了式に繁昌亭の舞台に上がれるのは選ばれし者だけなので、おじさん連は意欲を燃やしている(ことをかくさない)。わたしもがんばろう。

大阪に金沢をみにいく

金沢出身というと、皆いいねぇと言う。食べ物はおいしいし、街並みは素敵だし、21世紀美術館もよかった、雪の兼六園を見たいとうっとりする。
雪についてはシャブシャブ雪のうっとおしさと、鉛色の空の憂鬱の注釈を付け加えるが、他についてはその通りです、と頷いている。しかし、それは知ったかぶりやったわー、ということがわかった。大阪の阪急百貨店で開催中の「旨し美し 金沢・加賀・能登展」にて。

[:W300]阪急電車の中吊広告の「てるてる」があまりにもかわいらしかったので足を運んだ金沢展。
四十萬谷本舗のかぶら寿司、圓八のあんころ、中田屋のきんつば、俵屋のじろ飴…はいはい、おいしいけど、こんな並ぶなんて気の毒やね 大阪人よ、と食べ物については金沢代表気分でいられたのだが、伝統工芸コーナーでギャフンと言わしめられる。
伝統工芸は既に完成されたどっしりしたものというイメージだったのだが、なんだかちまちましたものが沢山あって、心をわしづかみにされた。瓢箪型の九谷焼も、桐工芸の「てるてる」も、なんともかわいらしい。
しかも、来るきっかけとなった「てるてる」は、小中の同級生の赤池佳江子さんがイラスト担当者だったので、それはそれはたまげた。あのこ、絵が好きだったっけと思い返しても記憶は遠い。伝統工芸界に同世代が。

その後コロッセウムのようなところで休憩していたら、人がたくさん集まってきて、突如「御陣乗太鼓」がはじまったので、またもやたまげた。ははん、あれか、と高みの見物をするつもりが、面をかぶった恐ろしい男衆の太鼓を目前にして動くことができない。海藻でつくった髪の毛がぬらぬらとすごい迫力だった。まさか大阪で初めて生で見るとは。

コンパクトに金沢(石川)を見物できる「旨し美し 金沢・加賀・能登展」は29日まで、新しくなった阪急百貨店にて。雪はないけれど、よかったらどうぞ。

遅れてきた、ちりとてブーム

ちりとてちんメモリアルブック 2008年 8/25号 [雑誌]年末にNHK連続テレビ小説ちりとてちん』DVDを貸してもらい、どっぷりはまった。
ちりとてちん』は上方落語噺家を目指す主人公の成長物語なのだが、その成長はともあれ、入門する徒然亭のあれやこれやにいちいち感情移入してしまい、特に渡瀬恒彦演じる草若師匠が亡くなるときには嗚咽が止まらなかった。
朝の連ドラというのは、15分で小さく泣かされ、1週間で大きく泣かされ、こんなに自身の感情に巣食うものだったとは、恐ろしい! DVDの文明により1日で1週間分見るという暴挙に出たため、毎日感情を根こそぎ持っていかれた。
主人公が覚える落語のみならず、登場人物名やストーリーにさらりと落語がからめられているのも、覚えている身には嬉しい。
これだけ感動しても5年も前の放送だし、また同じ脚本家の『平清盛』が史上最低の視聴率という旬な逆風もあり、共感できる人が少ないのが残念なところ。

しかし地下にはまだ根強き親衛隊がいた。その人たちは、毎年年末に桂吉朝一門会に合わせて大阪にやってきては、撮影舞台巡りをして、「和食巧房 ちりとてちん」で忘年会をするのだと、そこの店主が教えてくれた。年に1度忘年会でしか会わない人たちが何の話をするのだろう、興味深い。
そして主人公の故郷である福井県小浜市でも、ちりとては健在。ちりとてちん杯全国女性落語大会が毎年催されているとか。これは愉快な人たちが集結しそうなので、今年参加できたらいいな〜。

尻餅

暮れに繁昌亭餅つき大会に行った。

桂文枝さんや春之輔さんなどハッピを着た噺家チームが餅をつき、そろいの梅柄の三角巾をかぶったお囃子チームとお茶子チームが餅を丸める。餅のつき方がどうだとか、お茶子チームが若くてお囃子チームが引け目を感じるとか、しょうもないことをわぁわぁ言うてる様子は落語のよう。あんこやらきなこやら3つほどいただき、素敵な一年のしめくくりになった。

『尻餅』という落語のなかに「ちんつき屋」という職業が登場する。臼・杵・人力付の餅つきサービスで、来てもらう家はもち米だけ用意しておけばいいそうな。近所へ見栄を張るため、ちんつき屋を呼んだように見せかけて尻をたたき餅つきのまねごとをしたという噺の内容はともかく、家でぺったんぺったん餅をつくのは、年を越せる喜びにみちみちていてめでたい。
この噺と餅つき大会の余韻で、ちんつき屋に憧れる。人力が足りず退院後の夫をスカウトするも断られてしまった。ならばミニ臼セットはちょいと高いし、せいぜい白玉でも丸めるか。なんらめでたくもない日常…小さなことからコツコツと。

食べたいものリスト

だんなはんがA型の急性肝炎で入院した。

発熱してから5日目、あまりにしんどいので総合病院で血液検査した結果、肝臓にまつわる全ての数値が医師がびびるほどの値であったため、即入院となった。たとえば、肝細胞の破壊の度合いが分かる逸脱酵素GOT値が7800(上限値30)だったり、肝機能の働きが30%だったり。めちゃくちゃ過ぎてピンとこないのが素人の幸せか。

ひたすら安静にする治療で、入院して4日目には数値が落ち着いてきた。それでも吐き気がひどくて、しばらくはフルーツしか食べられず、「毎食戦いのようだ」とお粥に挑んでは黒星を重ねていた。点滴があるので栄養的には問題ないけど、北海道でご飯を3杯も食べていた頃との落差がひどい。

今ではもう少し数値が落ち着いて、黄疸のため顔や目は怪しく黄色いが、軟飯を食べるくらい元気になった。そして暇な日中は「食べたいものリスト」をつけるているそうな。リストには「餃子、ラーメン、ステーキ、赤飯」と昭和の小学生が好むような勇ましい料理群が並ぶ。「お寿司とかさっぱり系じゃなくて〜味が濃くて〜」と力説する姿を見ると、復活も近い気がする。

ところで、A型肝炎ウィルスは経口感染。日々同じものを同じ食器で食べていたので、私も潜伏期間かもしれない。最近食べたいものがなくなり豆腐ばかり食しているけど、よもや。健康保険に入っていないのでスリリングだ。